粉川哲夫の雑日記

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2009年 12月 01日
ウォーリーとイヴ
この「雑日記」に何かを書くと、すぐに鋭いメールをくれる畏友から、「貧困や格差に視点をおいた場合、日本の今後はどういうふうでしょう?」という質問のメールをもらった。わたしにはとうてい答えられそうにない質問だが、最近さっぱり更新しないので、刺激をくれたのかもしれない。
たぶん茂木健一郎先生なら、すぐさま答を出してくれるだろう。答だけなら。そうそう、茂木先生といえば、先日、『真幸くあらば』という映画を見に行こうと思ったら、試写状に、「あなたの脳内純愛が、ここから始まる」という茂木先生の推薦文があるのを発見し、急に行く気がしなくなってしまった。
「脳」とか「脳内」とかをつければありがたく見えるという傾向は、養老孟司先生あたりから始まったが、「10倍速く本が読める」というベストセラー本(複数あり)の基礎は、「脳」の最新理論にもとづく「フォトリーディング」だという。しかし、この手の本を本屋の店頭で卒読してみたが、100倍ぐらいの速さで読んでしまったためか、あまり「脳」とは関係ない感じがした。
そういえば、その「10倍云々」の本の帯に、<「フォトリーディングをマスターしたことが、現在の私につながっています」経済評論家 勝間和代」>という大きな文字があった。
そう、勝間和代先生なら、わたしの畏友の質問に、茂木先生よりはもっとリアリティのある答えを出してくれるかもしれない。
「儲かる仕事、没落する仕事」を特集した『中央公論』11月号の巻頭座談会「10年後、稼げる業種はどこなのか会議」で、勝間先生は、鼎談相手の男二人を終始圧倒しながら、「日本の政府は基本的に経済にはおバカです」と言い切る。そして、「地方の百貨店は全滅する」と予言する。「人が集まることで価値を見出していく『場のビジネス』そのものが廃れていくんです」。そのあとを襲うのは、Amazonだそうだ。電気メーカなども、「これから狙うべきは、電化製品のブランド化なんです。昔は鞄も汎用品でした。その汎用品をブランド化したことで、ルイ・ヴィトンのような企業が育ちました。つまりパナソニックやソニーという社名を、靴の世界でいう『ルイ・ヴィトン』のイメージまで持っていく。これから世界中で富裕層が増えてきますから、そういうブランド家電を買いたいというお客さんも出てくるはずです」。
う〜ん、問題は「富裕層」しかないのだ。しかし、予測はかなり当たるのだろう。日本のテレビ業界も、「ダメになる構造がデパートと一緒なんです」と先生は言う。「これまでテレビでしか手に入らなかった情報が、ソーシャルメディアやオープンメディアで手にはいってしまうので、メディアとしての価値が暴落してしまったんですね」。
茂木先生が「ウォーリー」だとすれば、勝間先生は「イヴ」である。ウォーリーが新しかった時代もあった。ウォーリーはひたすら決まった作業をする。「脳」とか「クォリア」とかをぺたぺた貼り付けることが新しく見える時代もあった。しかし、イヴは世代が違う。イヴは速攻で躊躇しないから、ウォーリーはもたもたして見える。
いずれにしても、いま流行の寵児は、みなロボットを演じている。それが「成功」の鍵である。
この「会議」のなかで勝間先生は、「現在の私」がどう出来上がったかをきかれ、次のような明解な答えをしている。
「それなりの高収入が狙える個人の資格職業には、弁護士、税理士、医者もありますが、会計士の試験がもっとも勉強時間が短くて済むんです。・・受かる人は1年で受かるし、3年かかって受からない人はやめたほうがいいというタイプの試験です。それに一度資格を取ってしまえば、公認会計士として働く以外に、私が実際にしたように投資銀行へ勤める、メーカーの経理部に入る、税理士になる、というように選択肢が多い。・・とにかく私は、いわゆる『つぶしが利く』状態に自分を置きたかったんです。お嫁に行って他の選択肢を選べなくなるのもまずいと思いましたし、会社に染まってしまって、その会社と運命を共にしなければいけないのも避けたいと考えました」。
ブリリアント! が、これは、頭の悪い「ウォーリー」向けの「イヴ」のせりふであって、こう言いながら勝間先生は、映画のなかのイヴのようにクククと笑っているような気がする。人生、そんな単純じゃないからね。